2025年8月12日
「入国審査」 「Upon Entry」
監督・Alejandro Rojas, Juan Sebastian Vasquez
2023年 スペイン
スペインからアメリカへの移住を目指すカップル。女性(エレナ)はスペイン人のダンサー。男性(ディエゴ)はベネズエラ出身、バルセロナに住む都市設計デザイナー。ドラマはニューヨーク到着の寸前から始まリ入国審査へ。パスポートを見せると取調室へ。なぜアメリカへ来たいのか、EUのどこの国にも住めるのに。エレナには、ダンスはなに?コンテンポラネオと答えると、パフォーマンスをしてみろ、ディエゴには都市設計は実際にしていたのか、などなど厳しい審査に二人は戸惑う。ディエゴが事実婚のエレナ(抽選ビザに当選している)を利用して入国しようとしていると疑われる。彼は以前インターネットで知り合ったアメリカ女性と婚約していることを理由に入国を試み失敗していたことがわかる。二人がスペイン語でやり取りをしていると、女性審査官が分け入って来る。スペイン語が解るのだ。この時の言葉の切り替えと女性審査官の眼の鋭さにはドッキッとさせられる。個別の審査に進み、相手に対する気持ちなど執拗な問いに疲れ果て、特にエレナはディエゴの母国の政情不安に同情するものの彼の過去も知らされて苦しむ。ディエゴも侮蔑的で強引な質問に絶望的になる。そういえば、彼は到着前から落ち着きのない様子だった…。ようやく待合室で一緒になるが二人とも言葉を交わせない。エレナの眼もとには涙が見える。しばらくして名前が呼ばれる。「我が国にようこそ!」の審査官の言葉、パスポートに押されるスタンプの音が響く。驚き喜ぶ二人の顔が大写しにされる。
移民問題の知られない部分に焦点を当て、両監督(共にベネズエラ出身)自身と友人たちの経験から脚本を書いたという。尋問室の内装や審査官の口調など細部の描写も苦々しい記憶に基づいているという。 松本益代